庭ある醸造所

2020年。緊急事態宣言が出た時は、醸造所と自宅があるこの敷地にいつもに増して救われました。

 

醸造所になる前、空き家だったここは、音楽家で庭がだいすきだったという旦那様と、養鶏をしている奥様が暮らしていた場所。私たちがテラスを建てたあたりにはいくつかの鶏小屋があり、醸造所とお店になった建物では、卵を数えたりしていたと聞きます。

昭和初期の記しがある立派な蔵は、飲食スペースやアトリエにとも考えたけれど、いまは「蔵」として醸造設備や原料の保管に使っています。小学生の娘は大きくなったらここの2階でアリエッティのように生活をしたいらしく、その話があるうちはこのまま手をつけず置いておこうかなーと思っているところ。

農機具が詰まっていた納屋は、今は「離れ」として暑さ寒さが厳しい日や雨の日の飲食スペースに。蔵に眠っていたカセットスピーカーが深みあるダンディーな音を聴かせてくれます。

庭に植えられたたくさんの木々は、いまも季節の合図。

 

ゆず、すだち、だいだい等の柑橘。梅、柿、かりん、ビワ。ソーダのシロップづくりにも、おつまみや調味料にも欠かせない存在。ローリエ、山椒、南天は、後に植えたハーブとともに料理をたのしくしてくれるし、よもぎやどくだみ、アロエ等の野草は日々の暮らしの中で重宝しています。

表で作業をしていると「ここんちは庭が広いから大変やろー」と通りすがりのご近所さん方が声をかけてくださいます。「前は毎日手入れしてきれいにされてたからなー草ひとつはえてなかったよ」とも聞くもので、一瞬背筋に力が…。植物への愛が詰まった素敵な庭であったことは間違いありません。そんな当時の様子を聞いたり想像するものすきです。

「冬の庭を制するものは、夏を制する」そんな言葉をいつも心の中で連呼しながら、外に出ます。庭にも畑にも押さえておくとよいポイントが年に何回かあって、少しずつそこを感覚でつかみながら、木々を剪定したり、地面を整えたり、種を植えたり。そうして手のかからない庭にしようと試みるのだけれど、まだまだ。10年計画でいた庭づくりも、あっという間にもう5年。最近は10年なんてすぐに経ってしまうような予感がしています。

 

去年の春はこんな庭で、夫もこどもも暇さえあればバッタを捕まえたり(とにかくたくさんいる!)、ブランコや遊具をつくってあそんだり、車生活をしていると普段なかなかできない昼の外飲みをテラスでしたり、しあわせな時間を過ごしたように思います。おかげでステイホームに飽きることなく、家庭崩壊することもなかったのかな。

それはきっと普段も同じで、この家に住むまで半日たりとも家の中でじっとすることができなくて「犬みたいやな」と言われていた旅人間の私も、ここ数年はめっきり旅どころか家から出ることが減りました。家にいても外との繋がりで暮らしているような感覚で、毎日部屋からみえる庭の色は変わり、仕事も絶えず。ビールのことが途絶えても、どこかに行くより、土を触ったり、釘や鋸を握りたい瞬間が多いのです。それをこども達に阻止されるんだけど笑。

そして、こんな緑豊かな敷地内で実は一番無機質な空間が醸造所。そこから一歩出るだけで、自然と猫と鳥のさえずりに囲まれる環境に、洗浄、ラベル貼り、瓶詰め・・単純作業で心折れそうな日でも、心洗われて続けられているみたい。ビールづくりもこの環境でのインスピレーションから多くが生まれています。